オススメ本です。

小学校高学年向きの児童文学ですが、
大人にこそ読んでもらいたい本です。
「竜退治の騎士になる方法」
岡田淳さんという、小学校の図工の先生を35年間やってらっしゃった児童文学者の作品です。
題名から行くと、何か楽しいアドベンチャーストーリーかなと思いますが・・・。
小学生にも、いや、大人にも示唆深い内容の良書でした。
竜退治の騎士になる方法とは、なんと、
<トイレのスリッパを揃えること> なのです。
この物語の主人公は、小学校6年生の男の子、康男くんと、女の子、勇樹ちゃん。
放課後の学校に、忘れ物を取りにいった二人は、誰もいないはずの教室で、中世の騎士みたいな格好をした男と出会う。

「あんた、だれや?」 って聞くと、関西弁でその男は
「竜退治の騎士や」 って名乗る。

康男君ははなから信じず、ちょうど次の日に学校に劇団が来ることから、その劇団員だと思っている。勇樹ちゃんは疑いながらも、結構本気で聞いている。
3人(この騎士の名はジェラルド

)が話をしていると、実際に竜が攻めてきて、竜退治が始まる。最初は勇樹ちゃんには竜が見えるけれど、康男君には見えない。でも、だんだん戦いに巻き込まれて行く中で康男君にも見えてきて、最後は3人で退治するという話です。
素晴らしいのは、勇樹ちゃんが、どうやってジェラルドが竜退治の騎士になったかを聞く場面で、ジェラルドはこう答えます。
「小学校5年生のときの林間学校に行った先の森で、女性の竜退治の騎士に出会い、「どうやって竜退治の騎士になれたん?」 って聞くと
、「林間学校で泊まっている施設のトイレのスリッパを次に使う人が使いやすい向きに全部きちんと揃えることです」 って答えあんや。
それも本気やでて」

彼はとりあえずやってみて、思ってた以上に難しいことを知ります。人の目が気になったりして。
でも彼は続けると不思議にも誰も何も尋ねず、そして彼はこう言うのです。
「不思議なことはそれだけやない。
林間学校の生活がなんやらええ感じになってきたんや。雰囲気が、なんちゅうか、とげとげしてたり、よそよそしかったり、わざとらしかったりしたとこがなくなってきて、ええ感じになってきた。」
何か読んでいて思わず微笑み、そして、涙が出てくるほど、身が震え、感動した。

関西弁というところも、何とも言えず良いし、変に押し付けがましくなく、説教話じみてないのが上手い。
作者の岡田さんも、「たいしたことを言いたいわけじゃなく、ただ、ぽんと肩をたたいて 「こう思うんだよ」 ってことを言ってあげたいくらいのことですが・・・。」 と述べている。
自分のいる世界が 「なんやらええ感じになってくる」
すごく素敵なことじゃないですか?
人生が、世界が、もっと豊かになってくる感じがしませんか?
それも、スリッパを揃えるという誰にでもできる簡単なことで・・・。
でも、実際に 「ええ感じ」 って、そんなことから始まるんでしょうね。